Andy ―掃除屋Scratch―
投稿日2003/04/03 作者たつる
作品傾向--パラレル/アクション?/原作/
CP傾向--恋愛ナシ
出演--スクラッチメンバー
コメント 近未来風味でパラレルで機械物話ですが投稿人一切こういった内容について詳しくありません。むしろご都合主義です。
読んでる最中に『いや、機械はこんなことしねぇだろ。』とか『まったくの無知だな。勉強しろよ。』系の文句は一切受付いたしませんのでよろしくお願い致します。
文句じゃなくてやさしい口調のご指摘はお受けしますので宜しくです
「だぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!!」
「このクソ馬鹿!!!」
 螺旋のような通路を二つの影が駆け下りる。
「何回同じことをやらかしゃ気が済むんだ、この筋肉馬鹿!」
 やや細めの影が並走する影に怒鳴りつけた。
「んなこと言ってる場合かよ!追いつかれるぜ!?」
 怒鳴り散らされた大柄な影も大声で返す。
「こんな状態にしたのは何処のどいつだ!」
 そう怒りを前面に出す言葉も頷ける。何故なら二つの影の背後には攻撃態勢を整えたマシンがピッタリと張り付いていたからだ。
否、ピッタリとは語弊がある。猛然と距離を縮めていた。
 小さな方の影が舌打ちをして連れとの距離をやや離す。
「な、なんだよてめぇ、俺を囮にして一人だけ逃げる気かぁ!?」
「ばーか。一旦俺は外に出る。あっちから干渉するから指示するまで逃げ切れよ。」
 そう言うと耳にかけられているマイクに向かって話し掛けた。
「みずき。俺だけ覚醒させろ。」
「何いってんのよ。まだ仕事終ってないのよ?」
 イヤホンから返事をしたのは若い女の声だった。
「仕方ねぇだろ、コースケの奴がまたへましやがったんだから!とりあえず俺が出てそっちから干渉かける!いいか、俺だけ、だ。俺だけ起こせ!久々の仕事不意にしたかぁねぇだろ!?」
「わかったわよ!でも知らないわよ?」
「ま、まてよみずき!俺も起こしてくれぇ〜〜……」
 不意に影が揺らぐ。コースケの声が遠くになり、ノイズをはらんだように視界はぼやけ、唐突に明るい電灯に照らされて男は眼をしかめ、起き上がる。
 正面のやや大型のコンピューターの前では長い栗毛の髪を一つに束ねたややつり眼の少女が座っていた。先ほどみずきと呼ばれた女だろう。
 男は寝かされていた台から滑り降りると少女の隣に座る。
「コースケの位置確認は?」
「一応。でもあんたが居ないから正確な位置はわかんない。辛うじて攻撃システムの追跡方向で予測できるぐらいね。」
「上出来。」
 男は頭の上にあげられていたアイシールドを下ろすと、座ったと同時にせり出してきた透明な板に手をかけ、物凄い速さで指先を動かした。
 透明な板には何も描かれていないように思えるが、男のかけているシールドを通すとキィが浮かび上がるようになっている。
 他人にキィ操作を見られないようにと開発されたシステムだが、操作を見るような人間の頭にはキィ配列など当然の如く入っているもので、板を這いずる指先だけでもある程度の理解は可能。
 故に余計なシールドまで被らなければならない『最新型』を男は不便に思っていた。
「コースケ。聞こえるか。」
 天からの助けとでも言うように呼ばれた男が返事を返した。
「がぁぁぁぁ〜〜待ってたヨォ澤村ちゃん!早いとこコイツらどうにかしてくれよ〜〜!!」
 浩介の声は今にも泣き出しそうな情けない声で、男は思わず溜息をつく。
 ――まったく、なんでこんな奴と組んでるんだ俺は…。
「今からウィルス入れるからワクチン打っとけ。『抗TSWST』だぞ、間違えるな。」
「まっ待ちなさいよ!駆除に来たのにさらにウィルス仕込んでどうすんのよ!」
「大丈夫だ。後には残らねぇし、ちょっと攻撃型の時間を止めるだけだ。後は実地テストを残すのみだったんだけどな。丁度いい、試させてもらう。」
「ってあんた!自機でしか試してないのに仕事に使うつもり!?」
 恐ろしい事を簡単に口に上らせる男にみずきは顔を引きつらせた。
「仕方ねぇだろ。それとも何か、仕事は失敗するわコースケは死なすは金は入らないわで良いわけ?」
 誠に至極もっともな事を聞かれて思わずみずきは口篭る。
「ちょーっと待ったァ!!!テメエら、俺のいない所で何恐い事語り合ってるんだよ!だいたい澤村、ワクチンってホントに効くのかァ!? 俺までフリーズって事にはならねぇだろうな!?」
 一人蚊帳の外にされていた浩介がイヤホーンを通じて参加する。
「でけぇ声でさわぐな馬鹿。平気だ、人意識には元々効きづらいように作ってるし簡易テストもした。」
「誰で!」
「俺。だから安心してワクチン打って大人しくまってろ馬鹿。」
「馬鹿馬鹿言うなぁッ!つーかテメエがテストモデルじゃ余計に心配だ!でも一応信用しとくぜ、だから殺してくれるなよ!」
 覚悟を決めたらしい浩介が『抗TSWST』を捜すために腰のポーチをごそごそとかき回す。小さなポーチの中は無限かとも思えるほど広かったが浩介の性格そのままに雑然としていた。
「これか…?」
 小さめの楕円ケースに気付くと急いで取り出し、蓋を開いた。
 とたんに浩介の全身を何か細かいものが包み込む。ただの霧状の何かに見えるそれは、よく目を凝らせば微細なプログラムの渦だと気付くだろう。
「打ったぜ澤村!」
 浩介の音声が聞こえてきたと同時に用意していたカードを差し込み、解除パスワードを打ち込む。
「浩介。ウィルスの効き目は長く見積もっても5分だ。その間にDラインに移動してアレを駆除しろ。」
 ウィルスソフトの解凍が始まる。
「5分〜〜!?間に合うのかよ!?」
「間に合わせろ馬鹿。」
 パーセンテージが100を指すと同時に澤村の作ったデータが自動的にインストールを開始した。
 外とのやり取りに気を取られていた浩介の目前に攻撃型マシンが迫った。前部に配置された口が開き、中から黒い筒型のものが姿を現し、ゆっくりと浩介に向けられる。
「うぎゃああぁぁぁぁぁ〜〜!!」
 浩介は他の事に気を取られていた自分を呪い、たった16年の短い生涯を閉じるのかと思った瞬間、幼い頃からの自分の姿が頭の中を駆け巡った。
 ――ああ、これが走馬灯みたいなってヤツか…。
「婆ちゃん姉ちゃん先立つ不幸をお許しください〜〜!!」
 大の男が半泣き顔で手を組んで祈る姿はなかなか面白い。
「いつまでそこでボーっとしてるつもりだ?」
 不機嫌そうな声に浩介が恐る恐ると片目ずつ目を開けると、浩介を包囲したマシンは凍りついたように全ての動作が沈黙していた。
 おもわず安堵のため息が漏れる。
「ああ、助かったんだな、俺。」
 先ほどとは違う意味の涙が浮かんできた。
「てめーの家族に最後の言葉を伝えられなくて残念だ。おら、起きたんならとっととDラインに走れ!」
「おっけい!」
 とりあえず追いかけられているという事態から脱した浩介は意気揚揚と走り出した。



 原色で溢れる雑多な店内は深夜も過ぎた時間帯だというのに賑わっている。
 角の隅に座った若い三人組はけして目立つ存在ではないが、店員は愛想良く迎え、注文も取らずに料理を並べ始めた。
「あ〜今回の仕事は疲れたなぁ〜。」
 あくびをしながら餃子にかぶりつくという器用な事をしながら浩介が愚痴をこぼす。
「てめえが馬鹿なことしてくれなきゃもっと楽出来たんだよ。」
 向かいに座った澤村が怒りに満ちた凍りつきそうな眼光で浩介を射抜きながら返すが、浩介には効かないようだ。
「そうよ。しかも攻撃型駆除ソフトを停止させるウィルスを注入なんて…もし依頼人にばれたら信用問題じゃない。」
 玉子とトマトのスープをすくいながらみずきも話に加わる。
「ところで澤村、本当に『アレ』後に残らないんでしょうね?」
「当り前だ。おれを誰だと思ってる?」
「……まぁ、あんたの腕は信用してるけど。でもねぇ…。」
 あきらめをこめたため息をつくと、黄金色のスープを啜る。
「あ〜あ、なんであたしったら、あんたたちみたいのと組んでるのかしら。」
「そりゃこっちのセリフだ。」
「ええ〜みずきぃ。そりゃないだろ〜〜俺はこんなにみずきを愛してるのに!」
 くだらないやり取りをしているが、この三人は駆除業界では名を馳せているScratchのメンバーだ。
 街は機械で溢れ、人の身体をも機械が補う世の中。素人でも簡単なプログラムを作り出せるようになってはいたが、その分暴走する機械は増え、反機会社会を訴える組織による大量ウィルスのばら撒きは深刻な状況を与えていた。
 そこで必要に迫られ生まれ落ちたのが駆除団体。
『機械の中に巣食ったしつこい虫どもを駆除します』
がキャッチコピーで生まれた駆除組織は外からやるより直に叩け。をモットーに、機械の電子回路の中に人意識を送り込み、ウィルスを文字通り駆除している。
 Scratchの業界で名が上がったのは『機械に愛された男』がメンバーにいたからだと噂されていた。どんな機械でも男を傷つけることが一切なかったからだ。
 ウィルスに侵され、人を破壊するようにプログラム変更された巡回警備マシンでも、男の前ではおとなしくなった。

 その男が本当の意味で機械に愛されるようになるには、今暫らくの時間が必要となる。



to be continued...?
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